結晶系・結晶方位による多色性の違い [戻る

多色性の程度は,干渉色の高い方位で強くなる傾向がある。

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1軸性結晶(六方晶系・正方晶系)の場合

c軸(=光軸)方向からみると多色性は見られない
(クロスニコルでは複屈折量が0で暗黒)。一方,c軸(光軸)に直交する方向(a軸などの方向)からみると多色性は最も強い(クロスニコルでは複屈折量が最大(正号結晶ではε−ω,負号結晶ではω−ε)で,干渉色が最高)。

※中間的な方位では多色性は中間的な強さとなる。
1軸性結晶の多色性は色の濃淡変化が主で,色調変化を伴わない場合が多い(2軸性結晶の多色性に比べ,変化が単調)。



鉄電気石(六方晶系/1軸性負号)の例
c軸(光軸)に沿った方向からみると多色性は見られない(クロスニコルでは複屈折量が0で暗黒)。
c軸(光軸)に直交する方向からみると多色性は最も強い(クロスニコルでは複屈折量が最大ω−ε(鉄電気石は負号結晶)。※正号結晶ではε−ωとなる)。



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2軸性結晶(斜方晶系・単斜晶系・三斜晶系)の場合


2方向ある光軸方向からみると多色性は見られない(クロスニコルでは複屈折量が0で暗黒)。一方,
光学的弾性軸のY方向では多色性は最も強い(クロスニコルでは複屈折量が最大(γ−α)で干渉色が最も高い)。

※光学的弾性軸:Z・X・Yそれぞれと下方ニコルの光の振動方向が一致したときの色を軸色:Z軸色・X軸色・Y軸色といい,参考書にはZ軸色・X軸色・Y軸色それぞれの記載がある。しかし,ユニバーサルステージを用いない通常の偏光顕微鏡観察では光学的弾性軸:Z・X・Yの方向は特定できないので,厳密な軸色の観察はできない。したがって,多色性の色は光学方位の記述を略し,単に「●色〜●色の多色性を示す」という表現のことが多く,1枚の薄片中の5〜6粒の同種の鉱物粒子の多色性を観察して,その色の変化の幅を見て,参考書のX・Y・Zの多色性の色(軸色)との整合性を勘案し,鉱物種の決定を行うのが普通である。

黒雲母(単斜晶系)の例
光学的弾性軸Y(b軸)方向からみた場合,多色性は最も強い(クロスニコルでは複屈折量はγ-α(最大)なので,最も干渉色が高い)。

※黒雲母は2軸性結晶だが,光軸角が小さいので多色性の色調変化は少なく,濃淡変化が主である(淡褐色〜濃褐色)


普通角閃石(単斜晶系)の例
光学的弾性軸Y(b軸)方向からみた場合,多色性は最も強い(クロスニコルでは複屈折量はγ-α(最大)なので,干渉色が最も高い)。



そして,2軸性結晶の多色性は,下の紅れん石やエジリンなどのように,色の濃淡変化のほかに色調変化を伴うことが多い。これはZ軸色・X軸色・Y軸色それぞれの色調がかなり異なるからである。たとえば紅れん石はZ軸色が桃赤色,X軸色が橙黄色,Y軸色が紫赤色であり,黄色系〜赤紫色系の著しい色調変化を伴う多色性を示す。また,鉄に富む頑火輝石はZ軸色が淡緑色,X軸色が淡赤褐色,Y軸色が淡緑褐色であり,弱いながら緑色系〜褐色系の色調変化を伴う多色性を示す。しかし,2軸性結晶でも光軸角の小さい黒雲母などは色調変化が少なく,多色性は濃淡変化が主である(火成岩中の黒雲母は+2価の鉄に富み多色性は濃褐色〜淡褐色,結晶片岩中の黒雲母は+3価の鉄に富み多色性は濃カーキ色〜淡カーキ色)。

※下図の,Z回転はX軸色⇔Y軸色の変化,X回転はZ軸色⇔Y軸色の変化,Y回転はZ軸色⇔X軸色の変化である(Z軸色とX軸色の違いは大きいのでY回転が最も多色性が著しい)。それらの軸の間の中間的な方向では,その中間的な程度や色調の多色性示す。








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多色性の方位の記載について)

1軸性結晶の多色性(O・E)や2軸性結晶の多色性(X・Y・Z)の色は,ユニバーサルステージがない場合,X´・Z´の方位で記載する場合がある。まず,クロスニコルで鋭敏色検板を入れ,薄片の薄い部分(周囲や割れ目の干渉色が1次の白程度の部分)が青(相加)になるようにステージを回し,X´・Z´の方位を決める。次に,平行ニコルにして,下方ニコルの振動方向とX´・Z´それぞれの一致した部分での色を見て,その色を記載する。
しかし,多色性が明瞭な鉱物は光に対する異方性が強いので,干渉色が高い傾向がある。したがって,クロスニコルで鋭敏色検板を入れて薄片の結晶粒子の薄い部分である割れ目や縁辺部を観察してもなかなか相加(青)・相減(黄)の決定に至らず,X´・Z´の方位の決定はできないことが多い(さらに,多色性を示す鉱物は濃色の場合が多いので,その鉱物の色がクロスニコル下での相加(青)・相減(黄)の決定を妨げる場合も多い)。したがって,多色性の色は光学方位の記述を略し,単に「●色〜●色の多色性を示す」という表現のことが多く,1枚の薄片中の5〜6粒の同種の鉱物粒子の多色性を観察して,その色の変化の幅を見て,参考書のX・Y・Zの多色性の色との整合性を勘案して,鉱物種の決定を行うのが普通である。
※黒雲母や普通角閃石は成分中のFe2+/Fe3+の割合やTi含有率による「Z軸色」が問題にされるが,おおまかにはそれはへき開線が1方向に見える粒子(c軸が薄片の面と平行な粒子。自形では短冊状の粒子)の,へき開線の伸び方向と下方ニコルの光の振動方向が一致した時の色と考えてよい。

●六方晶系・正方晶系(1軸性結晶),斜方晶系(2軸性結晶)の自形粒子やへき開がはっきりした粒子では,ユニバーサルステージがなくても,その形から軸色(1軸性結晶ではO・E,2軸性結晶ではX・Y・Z)が分かる場合がある。
例えば,六方晶系・正方晶系(1軸性結晶)の鉱物粒子の内で,短冊状〜針状のものはたいていc軸に平行な断面(干渉色が最高の方位)で,その観察方位はc軸に垂直な方向(a軸などに沿った方向)である。その粒子の平行ニコル観察で,下方ニコルの光の振動方向とそのc軸方向が一致した時に,Eの色が分かる。次に,その粒子を90°回転させた時は下方ニコルの振動方向がc軸に直角な方向で,その色がОである。1軸性結晶では一般に,Eが濃色で,Оが淡色の場合が多い。しかし,電気石類は下図のようにОの方が濃色で,Eが淡色である。



また,斜方晶系の頑火輝石では,内部に約90°に交わる2方向のへき開線がある粒子はc軸方向から見ている粒子(薄片の平面内にa軸=Y,b軸=Xがある)なので,クロスニコルで鋭敏色検板で青(相加)になった方位で,a軸=Y(検板のZ´方位),b軸=X(検板のX´方位)が決まる。そして,平行ニコルにして,下方ニコルの光の振動方向とY・Xそれぞれの一致した時の色がY軸色・X軸色である。
次に,へき開が1方向だけ見える粒子を見つける。それはc軸に平行な粒子(薄片の平面内にc軸=Zがある)なので,下方ニコルの光の振動方向とc軸(へき開線の方向)が一致した時の色がZ軸色である。


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結晶の伸びやへき開に対する多色性の色について)

1方向に伸びた鉱物やへき開の発達する鉱物については,その方向と下方ニコルの光の振動方向が一致したときに濃色になるものが多い(角閃石類・雲母類・緑泥石など)。しかし,電気石類など一部の鉱物では逆に伸び方向と下方ニコルの光の振動方向が直交するときに濃色になる。